そのような剣の心配をよそに、有佐は女の子と地面に腰を下ろして楽しく話をしていた。
「ねぇねぇ…。今まで聞いていなかったけどさ。名前、何ていうの?」
「まなえ…?えーっとね、う―…ん……。おかあさんから、『しらない人にはいっちゃダメだよ』って、言われているけど…。わたしのたいせつなおともだちを、わらわないでくれた人はじめてだし…。……おねぇちゃん、わるい人じゃないとおもうから。おしえてあげるね。わたしはね、『みや』っていうの。大原 美夜」
それを聞いた有佐は、驚きの余り勢いよく立ち上ってしまった。
この子だ!!と剣に伝えようと、剣の方を見たのだが…。
「なんだ。せっかく見つけたのに…。あんなに楽しそうに遊んでるよ……」
剣が精霊と遊んでいるのを見て、少しだけ頬を膨らませた。
「なんてヤツだ…」
一応、文句を忘れずに言っておくことも忘れない。
「ねぇねぇ、おねぇちゃん…?どうしたの?」
自分の事を『美夜』だと名乗った子が、座ったままの姿勢で有佐のスカートの裾を引っ張る。
「……へ?あ、ごめんごめん。でも、すごいね。こんなにたくさんのお友だちがいて。これだったら、毎日が楽しいでしょ?」
うん。という元気な返事を期待して尋ねた質問だったのに、返ってきたのは悲しい表情を浮かべた沈黙だった。
「………あれ…?どーしたの?」
そう言いながら座りこむと、いきなり美夜が飛びついてきた。
突然の出来事に、有佐は次の行動を起す事が遅れてしまう。
「みっ、美夜ちゃん?!」
美夜を受け止める事ができなかった有佐は、後ろへと倒れこんでしまった。
美夜は有佐の胸の中で今にも泣き出しそうだ。
「……あのね。ようちえんにいくと、おともだちから『おひめさま』って言われるの」
「………………」
なぜそう話し始めたのか、有佐には解からなかった。
とのような言葉をかければ良いのか、困っていた有佐は黙っている。
「あのね、わたしがこのおともだちのことを言うと、みんなが『うそを言うな』って言うの…ホントのことなのにね…」
同意を求めるように美夜は有佐に言った。
「そしてね…『そんなはなしをするなんて、ゆめみるおひめさまみたい』って…おともだちが………」
「……はぁ…。それで、『おひめさま』なの…?……あだ名として、そう呼ばれているんだね?」
大きな瞳に大粒の涙を浮かべながらも必死に堪えている美夜に、有佐は優しく問う。
「…うん…」
こくんと頷いた。
どう慰めたらいいのだろうか…と考えるのだが、なかなかいい言葉が浮んでこない。
うーん…と小さく唸りながら、先程倒れこんだ姿勢のまま視線を青い空に向ける。
「あっ!!そーだっっ!」
暫くの沈黙の後、元気に有佐が手をぽんと叩く。
だっこされたままの状態にいた美夜は、顔を上げて不思議そうに有佐をみつめる。
「あのねー、美夜ちゃん。わたしが、とっておきの『いいこと』を教えてあげるわ」
「いいこと…?」
「そっ。い・い・こ・と。すっごくね」
自信満々で有佐は答える。
「ま、『いいこと』っていうか…。うん、そうそう、予言ね。これは、必ず当たるんだよ。それはねぇ…。『いつか、あなたを助けてくれる人が来てくれるよ』って事なんだ」
「助けてくれる人…?」
「うん!今は話す事はできないけど。ほら、あそこ。見て?」
美夜は有佐が指差した場所へ視線を移した。
そこには、精霊と遊び終ったらしい剣が心配そうにこちらを見ている姿があった。
「あのひと…?」
美夜は有佐に尋ねる。
「うん、そーだよ。美夜ちゃんがお姫様なら、あっちにいる人は王子様になるのかなぁ」
「おうじさま…?」
「そ、王子様」
そう言って、美夜の背中をぽんと軽く叩き立ち上らせ、自分も同じく立ち上った。
「じゃぁ、美夜ちゃん。わたし、あっちに行くからさ…。おともだちとこれからも仲良くしてね?」
「え………。ねぇ、もう、あえないの?おねぇちゃん」
走り出そうとしていた有佐は、美夜の言葉にストップをかけられた。
「だいじょーぶだよっ!また、いつか会えるから」
じゃぁねと言って大きく手を振り、再び走り出した。
有佐は剣のいる場所へと走りながら、笑いたいのを我慢していた。
なぜかというと、自分が『予言』だと言った言葉の中で、剣が王子様になっていたからだった。
とっさの事とはいえ、今考えると可笑しな話だ。
剣の場所に到着しても、まだ笑っていたのだろう。剣が不審そうに尋ねてくる。剣の場所に到着しても、まだ笑っていたのだろう。剣が不審そうに尋ねてくる。
「おい、何を話していたんだ?俺の方を一回見せたみたいだったけど」
「なんでもないよ」
「ほんとか?」
まだ信じていないようだった。
「だいじょうぶだよ。わるい事は言っていないからさ」
ニコニコと笑いながら有佐は答えた。
「悪い事じゃないと言う時点で心配なんだよ。そしてその笑みが更に不安の素になるんだよ」
不安の材料になっている事を言い終ったのか、剣は一つ深く溜め息を吐き話を変える事にした。
「まぁ、この事に関しては追々聞くとするさ。それより、大原さんを早く見つけないと」
その言葉を聞いた有佐は、とっさにある方向を指差した。
「……」
剣はその方向を見る。
「あれ」
「は?」
「あの子。大原 美夜さん……」
話の急な展開に、剣も動揺を僅かながら表に出す。
「なんで…」
「聞いたから」
『知っているんだ?』と続けたかったのだろうが、有佐が素早く答えてしまった。
「………あのなぁ…。ここに本来いるべきではない奴が、過去に関っていいと思って……ったく、もういいや。…で?何があったんだ?」
「でも、剣だってその子と…」
剣の肩の上にちょこんと乗っている精霊を指差す。
少しだけ。ほんの少しだけだが、嫉妬も絡んでいた。
剣の肩の上は、自分の席なのだ…という。
剣は一瞬表情を変えたが、すぐに表情を戻して答えた。
「精霊からやってきたんだ。しょうがないだろ?…って、脇道にそれない!……それで?本題の方は?」
「それが、どこに封印されるべき事があるのか、わからないのよね―…」
「収穫なし…か……?先輩は何をさせたかったんだろうか…」
少し困った顔をする。
何も言われていないし、だからと言って過去では下手に行動するべきではないとされているのだ。
「う―…ん……。でも、全くのゼロではないような気がするなぁ」
「どういう事だ?」
剣が有佐に問いかけた。
「それがさー。精霊たちの事を話したら、ともだちからバカにされたって言ってたんだ」
「へぇ―……。そんな事が。……ふぅん……これを解らせたかったのかな?先輩は」
まだ元気に遊んでいる美夜を遠くから眺めながら言う。
そこへ突然、今までとは違う強い風が吹いた。
「うわっ!!なんだっっ、この風っ………!」
剣の肩に乗っていた精霊は、この強風に煽られてしまい何処かに飛ばされてしまう。しかし、二人はこの強風に目を開けてなどいられず、この事に全く気がつかなかった。
「なによ、これぇっっ!」
あまりにも強い風に、これ以上は頑張っても声が出せない。
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