【Y】 時間は過去。≪CUPS≫によって跳ばされた場所。


 ≪アルカナ・CUPS≫の能力で跳ばされた場所は、広い草原だった。
 今この時代は春らしく、辺り一面に色とりどりの花が咲いている。
 ここは、非常に気持ちのいい風が吹いている。
「気持ちのいい風だねー」
 有佐が大きく深呼吸をする。
「ここは……」
 剣は周囲を見回して場所を確かめた。
「知ってるの?」
「あぁ…。思い出したよ。ここは、俺が小学4年までは存在していた場所だな…」
「へー。遊んだ事あるの?」
 目をキラキラさせて聞いてくる。
「あ…あぁ…。そうだな。何回か遊びに来た事が……」
 有佐の質問に後ろへと下がりながら答える。
「ふぅーん。楽しかったの?」
 有佐は剣の顔をのぞきこみながら尋ねてくる。
「かっ…過去の思い出だよ……」
 そうとしか言いようがなかった。
 ただ有佐の気迫に負けたのではなく、本当に、今となっては『過去の話』なのだ。
「ふぅん…。ま、今日はいいや。その話、暇な時に聞かせてね?」
 ここで断わると更に事がもつれそうだったので、簡単にあしらっておく事にした。
 有佐は再び辺りをきょろきょろと見回す。…と、ある一点の場所で視線が止まった。
「ねぇ、あそこ…だれかいるよ……?」
 有佐が指差した場所へ、剣も視線を動かした。
 近視でも何でもないのに眼鏡をかけている剣は、度の入っていないレンズ越しにその風景を見る。
 その場所では、一人の女の子が遊んでいた。
「一人か…?いや、あれは……」
「凄いね。あんなにたくさんの妖精たちと遊べるなんてさ。…あんな子。めったにいないんだよ?ほとんどの人たちは…小さい子たちは……『いる』って信じていても、そうそう見れないものなんだよ。…まぁ、おとなになったら、なおさらだけどさっ」
 にこにこと嬉しそうに笑いながら有佐は剣に言う。
「ふぅん…。結構、凄い子なんだな」
「いいなぁ…たのしそ―……。ねぇ、剣。わたしもいっしょに遊んでくるねっ!!」
 言っている途中で走り出してしまう。
 突然の有佐の行動に剣も止める事が出来なかった。
「あっ、おいっ!ちょっと待てっ…!」
 聞いて等くれない事は百も承知ではあるのだが…。一応は止めの言葉を言っておく事にする。
「はぁ…ったく……あのうさぎは…。………?…誰だ…髪を引っ張るのは…?」
 後ろで一つに結んでいる髪を少し引っ張り上げ見てみると、そこにはスカイブルーの色をしたふわふわと丸い物体がぶらさがっていた。
「……………水の精霊…ルゥ・ミィ………」
 呆れた様子でその物体の名前を言う。
 水の精霊ルゥ・ミィと呼ばれた物体は、嬉しそうに「きゅっ」と鳴いた。
 懸命に剣の長い髪を這い上がり肩へと辿り着く。
 剣は肩に乗った精霊へ手を伸ばした。
 精霊は戸惑う事も無く、その手へと乗り移った。
「なんだ…?あっちでは遊ばないのかい?……ま、いっか」
 精霊を自分の顔の前へと持っていき、目を細めた。
「俺と遊びたいんなら、それはそれで構わないさ。でもな、俺はこの時代の人間ではないんだ。だから、ずっと一緒…ってことは、ちょっとムリかもしれないけど?それで良ければ仲良くしよう」
 精霊は剣の言葉に喜びの声をあげた。
「……そう?なら、よろしくな」
 精霊の頭を優しく撫でた。
 ルゥ・ミィはその行為を嬉しそうに受け入れていた。
「……それにしても…。あのうさぎは、何をしているんだか。………もしかして…また、いつものように変な方向に話をもっていってくれているんじゃぁ…ないだろうな………」




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