【Ⅴ】 任務内容
時間は進み、昨夜、約束していた放課後になった。
剣と有佐は、自分と同じ仕事仲間でありそして学校では一学年上の『杉本 優』がいるクラスへと歩いていった。
「あの…。杉本先輩、読んでいただけますか?」
扉の近くにいた人に、有佐が頼む。
「いいよ…。ちょっと待っててね」
そう優しく言うと、五人くらいの人がいる所へと向かって行った。そして、その中の一人の肩を叩き何か話をした後、剣と有佐の方を指差した。優は二人を確認すると呼びに来てくれた人物に一言礼を言い、更に今まで話をしていた人達にも一言二言話をした後、剣達の所へと小走りにやってきた。
「ごめんね。つい、話が盛り上っちゃって…」
「いえ。一方的に放課後と指定したのは俺ですから、気にしないで下さい。……ところで、話を詳しく教えて下さるそうで…」
「こんな所で話せるようなものではないから…。そうね、私の水の精・ウィーネルティレットの水宮へ行こうか」
優はそう言うと、二人を促がすように歩き始めた。
場所は学校の屋上。
放課後なのに、今日は運良くこの三人以外誰もいなかった。
「ウィーネルティレット…?水宮に通してくれない?」
ある一つのコンクリートの壁をトントンと叩く。すると、今までは存在しなかった扉が現れ、勝手にその扉のカギが音をたてて開いた。
優は、それを当り前という様にドアノブへと手を伸ばす。
「うわぁ、きれい………」
有佐が言った。
そこは水族館のような造りになっていて、見えない何かで水と空気のある空間が分けられている。そして、その水の中では多くの魚が泳いでいたのだった。
空間の中心を見ると、そこには水色の髪を持つ可愛い女の子が立っていた。
「待ってたよ。ゆう。げんきだった?」
にっこりと笑う姿も可愛いが、発する声も可愛いものであった。
「そっちこそ。どう?………ところで、この部屋ちょっと使いたいんだけど、いいかな?」
「どうぞ。あなたのためなら、よろこんでかすよ」
そう言って、水の精・ウィーネルティレットは微笑みながら消えていった。
「じゃ、どうそ。そこに座って」
優が指差した所を見ると、水色の椅子が現れる。
三人は、それぞれに座った。
「内容は、もちろん『大原 美夜』さんの事ね」
優が突然、本題に入るように話し始める。
「一体、彼女の事で何があるっていうのですか…?」
「そうよね。ただ会えはいい筈なのに。なんで任務として届くのか…さっぱり解からないんです」
剣も有佐も不思議そうに優に尋ねる。
しかし、優の答えた言葉は剣達の求めているものでは無かった。
「それがね…。単刀直入に言わせて頂くと、『自分で調べてね』という事になるのよ」
一瞬、沈黙の間が訪れた。
「あの…。それだと、先輩に尋ねに来た理由と意味が……」
剣が、申し訳なさそうに言う。
有佐も困った表情を浮かべている。
「ごめんね。本当は言いたいのだけど…、言えない事になっているのよ。…理由はその内解かるかもしれないわ。でも、今の私が言っていい事はこれだけ。それは…『彼女の記憶の一部に封印がしてあるの。だから、それをはずさないと彼女は≪REBIRTH≫としては何もできない』という事だけ。理由は解かっているの。でもね、これこそあなた達で知って欲しい事だから、言えないの」
優の言葉はよく理解できた。
ただでさえ、自分達のこの世界では約束事がいくつもあるのだ。
その中の一つ『その人の手助けはしても、決め付ける事はできるだけしない』という事があった。
だから、時々意味不明な人物と化す事も多々ある。
「私が今回あなた達の前へ『アルカナ・CUPS』として来たのは、その手助けをする為よ。もちろん、マゼンタ様と萌葱様に頼まれてね…。……さぁ、これは私の任務よ。『あなたに力を貸すという事』はね」
もう、高校生としての『杉本 優』の表情は表には無かった。
そこにいるのはアルカナとしての任務を果たそうとしている『杉本 優』の姿だった。
「……そして、何がおこったかを知り、閉ざされた何かを解き、目覚めさせる事があなた達の任務よ。『自分に来た任務は絶対に実行しなければならない』これは決まりだからね」
少しだけ苦笑いを浮かべながら、優が言う。
有佐も優につられて微かな笑みを浮かべている。
「わかりました。原因は自分で調べます。それ以外の事は……まぁ、なんとか理解したと思いますから。この場はお願いします」
剣は座っていた椅子から立ちあがり、優に向かって頭を下げる。
有佐もそれに習って立ち上り、同じ様に優に向かって頭を下げた。
場所はまだ水宮。
「じゃあ、始めるわね」
優の開始の言葉に二人は頷いた。
「私の特殊能力。『アルカナ・CUPS』の力は感情や情緒面の問題に回答を与えるものよ。……今回の件は、彼女の感情に問題があった。だから、私は天命に従い力をあなた達に貸します」
『天命』とは、自分達が先程から口にしている『任務』と同じ事を指す言葉だ。
時と場合または使う人によって、言葉が違っているだけの言葉。
「これで過去へと飛び閉ざされなければならなかった原因を見てきてください」
そう言った後、優は両手を胸の前で両手を合わせて、小さく言葉を紡ぎ始めた。
暫らくしない内に、両の手のひらの間に光りが集まってくる。
そうして、突然その光が剣と有佐を包んでいった。
「まっ…まぶしい……」
有佐が堪えながら言う。
「初めの任務はそれか……」
眩しい光の中、剣が言う。
「いってらっしゃい。うさぎさん、そして氷天君。頑張ってね」
剣達を包んだ光は小さく弾け、辺り一面にその光の粒は飛び散っていった。
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