察した通りだった。
 急がなければ!と思うのだが、自分の部屋までの道程が長い。グロリアとコニーがいるのは二階だが、自分は三階にいたのだ。それも、スカートの裾が邪魔で思うように走れない。


 そうこうしながらも部屋に着き、着替えを済ませ、自分の数少ない持ち物をまとめる。
 持ち物といっても、以前もらって自分の所有物となった本『ルピナス』と、少々の着替えの服…。
 これ以上は正真正銘の『お荷物』となってしまう。つまり、いつ終わるか判らない旅の不要品と成り下がるのだ。

 荷物を持ち部屋から出る。慌てて階段を降りると、そこには二人とも、全ての準備が出来た状態で立っていた。そして、隣にはおばさんも立っている。
「アリア、大変だろうけど、頑張ってね。今のこの現実を見据えるのは、とても大変な事だわ。でも、それをしないと、自分の居場所は獲得できないと…私は思うの」
 正面から、思いきり抱き締められる。
 アーニーは驚いた。さっきまで、グロリアと話をしていた事と一致していたからだ。
 視線だけをグロリアの方に移すと、グロリアもコニーも目を細めて微笑んでいた。
 アーニーの視線に気がついたグロリアは、『自分は言っていない』と首を振って否定している。
 それは、本当の事だとすぐに自分でも解った。
 なぜなら、自分とグロリアが話をしていたのは、つい先刻のことだ。それから今まで慌しかった事をふまえると、言う時間も無ければ、聞く時間も無かっただろうと、思ったからだ。
「…………ありがとう。自分の物は自分で捕まえていくように頑張るわ」
 そう言って、アーニーはおばさんから離れた。
「少しの間でも休息を与えてくれた事に、感謝します。きちんとした礼はまた…。それまで待っていてくださいね」
 コニーが相手を敬う様に深く礼をする。
「いいのよ、コニファー。ありきたりな返事になってしまうけど、あなたが《ドラセナ》を引き継いでくれることが、これ以上にない礼となるわ。頑張ってね、グロリアも。そして、コニファー…あなたが《ドラセナ》になる日を、心から待ち望んでいるわ。全ての住民がそう望んでいる事を忘れないでね。そして…自分に自信を持って」
 そうして別れを手短に済ませ、この場所から離れた。

「間隔が判るの?」
 アーニーが二人に聞く。
 先程まで泊っていた場所から、今は何があっても迷惑のかからない距離に三人で立っていた。
「くっそ―…。せっかくの身体共に休める場所だったのに……。あいつら―…、憶えとけよ」
 アーニーの質問は耳に入っていなかったのか、グロリアはぶつぶつと愚痴を呟いている。
「間隔ねぇ…。私が相手を知った理由は偶然だったからなぁ。まぁ…、だからこんなに余裕があるのだが」
 その偶然というのは、コニーが部屋で一人ふと思いつき、詮索の魔法をかけたこ事に始まるという事だった。
 あの時、コニーがそんなことを思いもしなかったら、多分相手の思い通りになっていた筈だ。
「なんだ。そーだったのか?」
 コニーの言葉にグロリアは意外そうだった。
「あんな急いで来るからさ。それなりに近付いているのかと思っていた。……でも、あの時は考えもしなかったけど、良く考えてみれば『そう』なんだよなぁ―…」
 グロリアは困った顔をしながら、「わるいわるい」と本気には思えない謝りの言葉を口にする。
「別にいいさ…。そんなコトいつもの事だからね」
「オイ……、ちょっと待て」
「間隔だが…。あの調子だと、早くて早朝より少し過ぎたくらいかな?遅くて…そうだな…。今から私達が出向いて行って、ばったり会うのが早朝より少し過ぎたくらい…。と、いう所だと思う」
 初めコニーが言った言葉に対して反論しようと突っかかったグロリアを、見事に無視してコニーが話を続けていった。
 その様子にグロリアは、ただ唸るだけだった。
「じゃぁ、どうするの?……ずっと待ってる?それとも、休憩してから出発するの?…なんだったら今から向かう?」
 アーニーが三つの選択肢を、まとめて言っていく。
「あっ。俺は、一番目か二番目に賛成だなぁ」
 今日は疲れたよ…と、グロリアが大きく欠伸をする。
「そうだね。まだ疲れが取れきっていない様だし…」
 コニーも先ずは休憩を取る事を提案した。
「なら…。見張りは交代で……」
 アーニーの言葉を最後まで言うよりも早くに、コニーがその提案に否定した案を言った。
「いや。皆疲れているんだ。私がまた魔法を使うよ」
 誰の意見の聞かずに自分から魔法を唱え始めた。
 勿論、その行動に対しては、二人とも否定をしなかった。
 明日からは少しずつ相手の本拠地に近づいて行くのだ。
 いざという時に本領発揮が出来なければ、いくら強い自分達でも勝算は低くなってしまう。
「ありがと、コニー」
「いえいえ…。身近にいる大切な人達も守れないでどうする…?ってね。・・・・・・これは私の義務だよ」
 コニーは冗談に見せつつも本音を言ってくれた。
「これだから、守り我意があるんだよ…。でも、今回はコニーの好意に甘えさせて頂くよ」
 グロリアは、辺りを見回し休憩するのに良さそうな場所を探しながら言った。
「グロリアは自分でも何とか出来るから大丈夫だろう?私が言ったのは、アーニーだよ…?」
 それをきいたグロリアはアーニーを見ながら嫌な顔をする。
 こうなると、アーニーだって困った顔をするしかない。
「そんなコト言うと、いざという時、護ってやらんぞ?」
「そんな事ないから、こんな冗談が言えるんじゃないのか?」
 今回はコニーの方が何枚も上手だったようだ。
「この・・・・・・欲張りめ」
 負け犬の遠吠えにしか聞こえないところが、悲しい。
「誉め言葉として受け取っておくよ」
 アーニーは、二人の言葉のやり取りを見て、どっちもどっちだと思った。
「あなた達って仲が凄く良いのよね」
 羨ましいのか、遠慮したいのか解らない関係だった。
「仲が良いなんて…」
「余計なお世話だ」
「・・・・・・・・・・・・ほらね」
 そういう所が、仲が良いと言うのだと言ってやる。

 翌朝、今はまだ日が昇ったばかりの時刻。
「アーニー…、いけるか?」
「大丈夫かい?アーニー」
 それぞれに気遣ってくれる。
「えぇ…。ルピナスの内容も、だいぶ憶えたわ」
 自分が二人の役に立てるように、日々一生懸命本を開いては読み、何時でも状況に応じたページを開けるように内容を確認していたのだ。
「違うよ…、アーニー。私が言ったのはそういう事じゃなくてね…」
 苦笑を浮かべたコニーが、言葉を濁しながら言う。
「気分の問題だよ。俺達が聞いたのはね…。まぁ、俺達が守れるところまで守ってやるから……。…………な?」
 グロリアも笑いながら、アーニーの頭をポンポンと軽く叩く。
 暫らく間をおいてから、二人同時にアーニーに合図をおくる。
「さぁ…、行こうか…?」





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