【V】 道の途中で…
自分達のいるべき場所へと帰ろうとしていた途中で、日が暮れてしまった。
来た道をそのまま帰っているだけだし、良く知っている道だから、勿論、一日内で行ける距離ではない事くらいは、アーニーもグロリアも承知の上だ。
「今日はこの宿屋に泊ろうか?」
グロリアが、いつでも立ち向えるように構えていた自分の身長程もある剣を、周りを確認しつつも肩へかけなおす。
「いいのだろうか…。追われている身の私が、のこのこと入っていっても…。…やはり、迷惑では……」
しかし、コニーは口ではそう言っても行動は違ったものをとっていた。
彼もグロリアにならって、【ワンド】と一般的には呼ばれる《スート》が必ず持っている杖を、肩にかけてあったケースの中へなおしたのだ。
だが、なぜコニーがそう言ったのかというと、一応《スート》が着るような服装は避けて、一般市民が着るような服を着ていたとしても、今まで過去、グロリア達とよく街に出かけていた為、それでも『コニファー ステファノティス』だと、わかってしまうからだった。
「大丈夫よ。言ったでしょ?『みんな、貴方をまだ心配している』って。それに、もう遅いって、コニーが動く前から事態は変っていないのよ?変るんだったら、コニーがいい方へ変えないとね」
「そうそう」
グロリアもアーニーの言葉に賛成したようだった。
そしてコニーはにこにこしているアーニーに手を引っ張られ、グロリアが開けてくれた宿屋の扉をくぐって入っていった。
「やあ、おばさん。つれてきたよ。約束、守ろーね」
足を踏み入れるなり、グロリアがそう言った。
「あら、ホントだわ。懐かしいわね、コニファー。大変なめにあわなかったか皆心配していたんだよ?」
宿屋の女主人が驚きながら、奥の扉から出てきた。
「大丈夫ですよ。相変らず心配性ですね、おばさんは」
肩をすくめてコニーが苦笑いをする。
続いてグロリアが間を置かずに喋り始めた。
「……信じていなかったのか?さびしいなぁ。言っただろ?剣の腕には凄く自信があるってさ」
アーニーは前回の話の内容を知っている為、くすくすと笑っていた。コニーはというと、案の定話がつかめていなくて、何が何だかわからないといった感じだ。
「…ほらね、おばさんも心配してたでしょ?コニーは本当に無事なのかって。…数日前に泊りに来た時に、言ってたのよ。『もし、コニーが無事だっていうのを確認させてくれるなら、またおいで。その時は今回以上のご馳走を出してあげよう』ってね」
「なんだ。結局は、私を使って自分の得になる方へ、事を運んだのか……」
コニーが呆れ顔で言った。
「あらまぁ、そんな事無いわよ、コニファー。この子達は私がこの条件を出す前から、黙ったままでいるあなたを説得して、世間に出して皆に安心させるんだって言っていたのよ。ただ、私がコニファーの無事を、住民の誰よりもいち早く知りたかったから、ちょっとグロリアを使っただけよ」
「そ、俺は使われただけ。まぁ、コニーも初めっからその気だったみたいで、説得の手間は省けたんだけどね。…さ、おばさん。早く何か作ってよ。なんたって、コニーの家からここまでって、結構ある上に、邪魔してくれる人達もいてさぁ、消費が激しいんだよな…」
テーブルがたくさん並んでいる内の一つへと向かい、椅子を引いて座る。
「わかっているわよ。ほらほら、コニファーも、アリアも椅子に座って」
『アリア』とは、アルメリアを略した名前だった。
『アーニー』と呼ぶのはグロリアとコニーの二人だけで、二人して、『アリア』以上に親しい呼び方はないか?と、試行錯誤して考えた略名…呼名だった。
アーニー自身も、とても気に入っていて、その上、自分がここにいても良いという再確認も出来て、非常に嬉しい事だった。
すすめられるままに二人とも椅子に座る。
「…………にしてもなぁ…敵さんの数…。だいたいの予想が外れたなぁ」
宿屋の主人が台所へと消えた後間を置いて、いつになく真剣な顔をしながらグロリアが言った。
「……え…?」
アーニーは経験を積んでいた訳ではないので、先程相手をした数が多く思えたのだ。
「………確かに、私もそれは思ったよ。私はただ甘く見られていただけかとあの時は思っていたのだが…」
机の上に肘をつき、指をくませてコニーは前屈みに体勢を移しながら喋っていく。
「そうなんだよな…。数は少なくとも、技術はそこそこある人達ばかりだったからねぇ……」
椅子の背もたれを支えに、大きく伸びをする。
「…ということは、どういうこと?」
完成された答えを知りたくて、二人に尋ねる。
「……つまりは、こういう事だよ。その他の対抗している人達…あ、《スート》や《ラケナリア》のことね。…彼等もまだある程度は元気だという事。そして、そちらを手薄にすると、ここよりももっと大変になる場所にその人達がいるんだ。だから、メインになる場所を、そっちにせざるをえなかったんだよ」
コニーが丁寧に教えてくれた。
「まぁ……、アレだな。こっちには量より出来るだけ質な人材を集めて、あっちには『目には目を』ってヤツだな」
グロリアが説明を付け加えるように言いつつも、コニーに同意を求める。
「そんなトコだと私も思うよ……」
コニーが同感だと、微笑みながら答える。
突然グロリアが表情を変え真剣な顔にし、話し出す。
「しっかしなぁ…。その頭首となるコニーを捕まえて、皆の前に出して、黙らせるって事は思いつかなかったものかねぇ…。そうすれば、誰も手出し出来ないから、完璧にあちらさんの勝ちになるだろうに…。そう思わんか?」
ゆっくりとグロリアが言う。
「…………」
アーニーは困った顔をしていた。
「どうしたんだい?アーニー」
コニーはアーニーの行動に疑問を持つ。
「…う―…ん……。ただね、グロリアって、いっつも何も考えてなさそうに見えて、実は、いろいろと考えていたのかなって…」
ただの猪突猛進で行き当たりばったりな人だと思っていたわ。ゴメンね…と付け足す事を忘れずに言った。
「誉め言葉だと思っておくよ。それ」
グロリアが乾いた笑みを浮べながら言う。
「…………。なんて、プラス思考なんだ……」
コニーが呆れ声で言った。
「それも有り難く頂いておくよ」
グロリアはコニーに向いてニヤリとだけ笑う。
しばらくすると、アーニー達のテーブルの上にたくさんの料理が並んだ。
「さぁ。今日は疲れただろう?ゆっくりと休んでいっておくれ」
感謝の気持ちを言葉に表わしつつ、食べ物をすすめる。
三人とも好意に甘えて料理に手を伸ばしていく。
料理はどれもこれも美味しいものばかりで、それまでの疲れなど本当に消え去ったようだった。
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