【Y】 アルカナ
「よっ。元気にしてたかい?」
カミエル ラグリエットが片手を軽く上げて、剣や美夜の場所へやって来た。
「そんなに長い間会っていなかった訳でもないのに、何を言っているんですか…」
剣はカミエルの方へ向きを変えて言った。
「あっ、リベラル様。こんにちはー私は元気にしてましたよー!」
うさぎのぬいぐるみは、嬉しそうに長い両方の耳をふりふりと動かしながら挨拶をした。
「相変わらずだなぁ。良い事だよ」
うんうん…と頷いて、次に美夜の方に視線を移す。
「ハイ、ミヤ。君は言葉の通り『久しぶり』だね。あれから調子はどうだい?」
「あっ…はいっ!ユリエットも優しいですし、楽しいです」
「そう。それはよかった」
これからも仲良くしてやってねと、嬉しそうな表情を浮かべながら言った。
「はい。……ところで、その方がもう一人の監督責任者ですか?」
美夜が視線を移した。
「そうだよ。この方は【アルカナ・スウォード】の一人、天野 咲也様」
剣が非常に簡単な紹介をする。
「どうも。初めまして。天野 咲也といいます。以後宜しく」
本人も簡単な自己紹介しかしなかった。
「わたしは、佐倉 あかり。よろしくね」
咲也の腕の中に、おとなしく収まっているクマのぬいぐるみが言う。
「じゃぁ…。こっちの二人は、俺が紹介しよう」
そう言ったのはカミエルだった。
初めに美夜の紹介を。
次にユリエットの紹介を簡単に済ませる。
「先刻から気になっていたけど…。大原さんの相棒は横文字の名前なのかい?」
咲也が珍しそうに訊ねてきた。
あかりも珍しそうに「たいてい漢字の名前の人は、漢字の名前を名付けるのよね」と、言っている。
「あぁ、それな。コイツ…彼女で二人目なんだよ」
「最初の相手が『横文字』の名前だったので。それで、僕も『横文字』なんです」
カミエルのセリフに次いで、ユリエットも答える。
「あぁ…。それでか」
咲也も直に納得した。
「『そういうコトを知っている』という事は、知り合いですか?お二人は」
再び天野 咲也が質問した。
「そういうこと。よく知っている仲さ」
ラグリエットが言うと、ユリエットは「認めたくないけど…」と、いやいやそうに答えた。
挨拶も簡単に済ませてしまったので、他の所と比べて時間が余ってしまった。
「まいったなぁ…時間が余ったぞ」
そう口にしたのはカミエルだった。
「確か…。こういう日程の会合は、顔合わせだけで終了なんですよね?」
咲也がカミエルに対して確認をする。
リベラルは黙って小さく頷くだけだった。
「好きなようにしたらダメなんですか?」
それまで大人しくしていた有佐だったが、我慢の限界だったのか剣の肩の上でじたばたし始めた。
剣はその行動にびっくりし体を動かしてしまったので、簡単に肩の上からぬいぐるみが転がり落ちていく。
うさぎは慌てて洋服にしがみつこうとする。
しかし、そんなに簡単に止まる訳もなく、ずるずると服を引張っているだけのようにも見えた。
美夜はその様子を苦笑いしつつも見守るだけで、その他の人物も似たような行動をとっていた。
「いきなり暴れるからだよ…」
剣は、うさぎのあるのかないのか判らない首根っこを摘み上げた。
「でも…確かに、有佐の言う通りでもあると思いますよ?」
抱え直しながら言葉を繋げる。
「じゃぁ、質問タイムにしようか」
「出来るんですか?そんな事」
カミエルの言葉に対して、有佐が質問を投げかけた。
「確かに。以前は会合の時に、この会場から外に出る人間なんて見なかったな…」
ユリエットも似たような事を口にした。
「そんなの、リベラルの俺には簡単な事さ。ついでに、今回の場所の提供者だしね。連れて行ってあげるよ」
言いながらスタスタと歩き出した。
天野 咲也は一瞬の間を擱いた後に、苦笑を浮かべながら歩き出したのだが、他の人達は…というと、あっけにとられてその場に立ち尽くしているだけだった。
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