【]T】 言葉
これは……。
紙には『新たな息吹きを貴方に』と書いているが、つまりは目の前に居るこの金木犀を殺せという事か――…。
「なんで?せっかく会えたのに」
今まで自分を守ってくれた事に対して詫びを入れたいのに、そのような時間も無いのか…?
目の前に座っている金木犀を見ていると、その人物は確かに虫の息状態だ。
本当に、この状態で保っていられるのは有佐のおかげなのだろうと思った。
「ねぇ…。さっき言いかけた言葉の続きはその用紙に書いていた事と同じなのよ……」
金木犀が口にした言葉。
どうしてそのような事を言うのだろうか…?
金木犀は穏やかな笑みを向ける。
「私も欲張りなものよね…。貴方の力…『リバース』なら……、生まれ変わってもう一度貴方を守る事が出来ると思っているのよ………?……ごめんなさい…。貴方に辛い思いをさせてまでも、その様な望みを口に出してしまう私を許してね」
ずっと笑っていたかったのだろうが…、いつのまにか微笑みの中に隠しきれなかった涙が頬を伝わっていた。
美夜もその姿を見て涙が溢れてくる。
「さぁ…。この状態を保っているのは、誰でもない…金木犀の精が一番辛いんだよ」
ユリエットが後ろから両肩に手をゆっくりと乗せてきた。
美夜は意を決したのか、溢れる涙をごしごしと袖で拭き取り、初めて手にする剣を慣れない手つきで構える。
「今までありがとう…。これは任務なんかじゃないわ。…貴方の望みだから……」
「えぇ…わかっているわ。…最後にこれだけは言わせてね。……沢山の思い出をありがとう………」
微かな微笑みをにっこりと微笑む笑みへと――…懇親の力を込めて……美夜へと捧げた。
大きく振り上げた剣を、金木犀の胸元へ突き立てる。
「だいすきよ」
「ありがとう」
二人同時に…。誰にも聞えないようなボリュームで呟いた。
【]U】 再生
金木犀が座っていた花壇のような囲いの中には、もう誰も居なかった。
その場所には血塗られていない透明なままの剣が地面に突き刺さっているのと、その近くには金色の杓杖があのままの状態であるだけ。
その杓杖の形が十字架のような形をしている為か…それは墓標にも見える。
美夜はその場で一人立ち尽していた。
「美夜ちゃん……」
その場へ行こうとした有佐を剣が捕まえる。
「そういう慰めの言葉は…。時として思い出を蘇らしてしまい、慰めにならない事もあるんだよ」
それを聞いて有佐は立ち止まった。
美夜を見ると時々肩が微かに震えているのが伺えた。
泣かないように一生懸命、溢れる感情を押さえているのだろう。
直ぐ後ろに立っていたユリエットが片手をあげる。
「エリアス……」
そう言ったのはリベラルだった。
その言葉にも差し伸べられた手は止らない。
ユリエットは美夜の肩をポンと軽く叩いた。
「別に…悲しんだら駄目な理由は無いだろう…?その気持ちは君だけの物なんだから。それに…ほら。目を開けて下を見てみろ。リバースだけの特権だ」
現実を拒否するかのように目を閉じていた美夜の視界を新たな現実へと促がす。
美夜はユリエットの言葉に素直に従い目を開けた。
「そう…。言う事を聞く子が僕は好きだよ」
背中を再びポンポンと叩く。
目の前に広がった光景に、美夜は言葉がでない。
「俺じゃぁ…こんな光景は作れないな」
「ホントだね」
剣の言葉に有佐が同意する。
「へぇ…土の精霊 ルゥ・ミィが二匹か…。……昔の記憶は無いが…この子達には君への優しい気持ちがいっぱい詰まっている…。これは君としか契約を交わさないだろう。俺達には契約したくても出来ないな。お手上げだ」
にっこりと笑みを浮かべてリベラルが言った。
「ほら。約束の言葉を…。そうすれば、この子達も喜ぶだろうね」
ユリエットは美夜の肩を下へ押して座るように薦めた。
美夜は、すとんとその場に座り込み、我慢していた涙をぼろぼろに止めど無く流した。
目に写った光景に涙せずにはいられなかったのだ。
その姿に、新しく生れたばかりのふわふわした綿毛の様な二匹の精霊が慰めるように近寄ってくる。
「これから、ずっと宜しくね」
涙に濡れてはいたが、自分が出来る最高の笑顔を向ける。
二匹の精霊は喜びを体中で表現するかのように飛び跳ねた。
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