・兄弟のありかた・
今日もまた『今日』が始る。
爽やかな風に軽やかになびく新しい服に身を包み、軽やかなリズムを口ずさみながら、一人の女の子が学校への道を歩いていた。
「おっはよ―――!みかんちゃん、今日もかわいい服を着てるね」
後ろから自分を呼ぶ声がする。
学校に行くという事で、行動範囲を妨げない程度に広がっている控え目なフレアスカートを軽やかに翻し、声のした方を見る。
「あっ!」
声の持ち主が誰か確認した上で、にっこりと笑う。
「かえでちゃん」
もともと可愛いつくりの顔をしているというのに服がぴったりと似合っているので、尚更可愛く見える。
誰が見ても、よくここまで中の人間を引き立たせる事が出来たものだと関心してしまう位だ。
楓がみかんに追いついたところで、二人は一緒に歩き出した。
「今日の服も?」
「うん。そーだよ?おにいちゃんが作ってくれたんだ」
そう言って手に持っているカバンを少し持ち上げて見せてくれた。
そこには『ORANGE』というブランド名が書かれていた。
「これも、きのうもらったんだ。『みかんせんようのブランド』だって。やっと名前を決定したからって」
嬉しそうに、みかんが言う。
「でも、なんか今いそがしいんでしょ?きのうのお迎え、あわてて来てたし」
昨日の放課後を思い出してみる。
放課後いつもの様に、学校の駐車場に待っているはずの兄の所へ、楓と一緒に向かう。
「あれ?」
みかんが、いつもの場所で待っているはずの兄の姿がない事に疑問を抱く。
「?…どうしたんだろうね。いつもは、待っているのに」
そう言っていると、駐車場に車が一台入って来た。
みかん達の前に止まるとすぐに、運転席から背の高い人間が出てきた。
「すまない…。『リーフ』の新作発表会のリハをしていたんだけど、一人、今日だけ急用が出来たらしくてね。僕が代りをやっていたら、なかなか抜けられかったんだ……」
そう言った人物の服装を見てみると、普段着にしてはきまり過ぎている服を着ていた。
「どう?今回メンズの中では結構の自信作なんだけど」
楓とみかんの二人に向けて、黙っていたら冷静な面持ちの顔で柔らかく笑った。
ごく最近出来たばかりの過去の思い出を思い出す。
「う―…ん……。そうなんだよね」
そう言って、兄の行動を考えてみた。
「そう!で、ね?私も聞いたんだよ。そしたら、『大切な妹のためだから、それとこれは別』だって」
にっこりと笑ってみかんは言う。
「へ――」
本当に妹バカというか、そのままシスコンと言っていいのか…と呆れて思ってしまう。
「本当にみかんちゃんの事が、大切で大好きなんだね」
楓が言うと、みかんは自信たっぷりに微笑んで言った。
「私もお兄ちゃんの事、お兄ちゃんに負けないくらい、大好きだよ?」
嬉しそうに言うその表情を目の当りにし、楓は両肩を、がくっと落としてしまう。
兄が兄なら、妹も妹という事か…。
ここまでくると、この兄弟愛を羨ましく思うどころか、ほとほと呆れてしまう。
「幸せだね。みかんちゃんは……」
「うんっ!」
それを聞いて、もう勝手にしてくれと、心底思ってしまった。
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